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大阪家庭裁判所 昭和30年(家)5896号 審判

申立人 川上治子(仮名)

相手方 大島太郎(仮名) 外一名

主文

相続人川上治子(頭書事件申立人)、同大島太郎(同相手方)、同大島花江(同相手方)に対し、被相続人大島康子他一名の遺産の換価代金中それぞれ金一〇、〇〇〇、〇〇〇万円を取得させる。

遺産管理者野口三郎が、その保管にかかる被相続人大島康子他一名の遺産の換価代金中より、相続人川上治子、同大島太郎、同大島花江にそれぞれ前項の金額を支払うことを許可する。

理由

本件遺産の範囲は、(1)大阪市天王寺区○○○町○○番地宅地七六四・九二平方メートル、(2)同番地上、家屋番号同町○○番○○番木造瓦葺二階建居宅一階三九・六六平方メートル、二階二四・七九平方メートル、附属建物木造瓦葺二階建居宅一階五二・八九平方メートル、二階四九・五八平方メートル、(3)同番地上家屋番号同町○○番木造瓦葺二階建共同住宅一階五九坪八五、二階五六坪三五であつたところ、(2)建物の敷地並びに同建物専用道路部分を除く(1)土地、及び(3)建物は、昭和四八年一〇月一八日付家事審判規則一〇七条にもとづく処分命令により、代金総額六六、〇八八万八、〇〇〇円を以て換価せられ、右換価代金については、遺産管理者野口三郎の選任をみたうえ、管理費用、立替金、換価費用等を支出した残額五、四〇八万四、一七二円及び利息金がその管理に委ねられている。

ところで、前記換価の実行に当つては、換価後事件を調停に移行すると共に、その代金額の多額であることなどに鑑み、換価代金中爾余の遺産と対照して別途処理するも全体としての分割基準の実現に著しい支障が生じない程度の金額を、取り敢えず当事者間で均分分割するとの案が審判官より提案斡旋せられ、各当事者も特段の異議なく、むしろこれを希望する態度であつたので、右線に沿う進行の見とおしが持たれていた。しかるにその後相続人大島花江は、換価及びそのための立退問題に関し、買主及び他の相続人に対する不満確執から、換価代金の一部事前分配に同意しない態度を明らかにし、予期せられていた調停による解決も困難となつた。そして審判による事件の終結は、現に残余物件が鑑定中であるなどの事情から、なお或る程度の期間を要するものと思われる。しかし、右花江以外の相続人治子、太郎は、いずれも換価当初より、終結換価代金を取り敢えず一部分配されるよう熱望しており、又事実現に両名共相当額の家族医療・療養費の必要に差し迫られている他、太郎はこれと云う職業収入もないため生活が逼迫しているうえ少なからぬ負債もある事情にある。そして右事情に加えて、現時インフレ傾向化の社会情勢のもとにおいては、現金保管による資産の著しい目減り傾向は避けられず、これを各自の自由・適宜な判断運用によつて出来るだけ回避する機会を与えることが各当事者の利益にも適うこと、当事者らはいずれも相当な高齢であること、更に又時正に歳末期でもあることなど考慮すると、換価代金以外の爾余の遺産及び生前受益並びに遺産に対する寄与分等当事者ら主張の問題点も勘案し、換価代金中なお別途処理するも終局的分割における分割基準の実現に著しい支障の生じないことが見込まれる部分は、これを審判前の仮の処分により、各当事者に取得させることが相当であり、かつ許されるものと考える。そして本件においては、主文掲記程度の金額は、これを各人に支払つても爾後の審判に著しい支障は生じないものと認めるので、よつて家事審判規則一〇六条にもとづき主文のとおり決定する。

(家事審判官 西岡宜兄)

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